浴室までは何マイル?
嫁は風呂に入りたがらない人間である。
いや、
夕食が済み、リビングのソファで寛いでいると、
「おふろ入りたくない」
既に慣れっこの私の返答も決まっている。
「そうか、おふろはいれー」
「なんでー!?なんでいつもそう言うかー!?」
「そうだね、ごめんね」
「うんうん、と、言うことは……?」
「おふろはいれー」
「なんでー!?」
このようなやり取りが毎晩のようにある。
しかしその後も、彼女は当然すぐには動かない。
「お風呂場は緯度が違う、寒い」
「
「私はしずかちゃんじゃない」
等とよく分からない理由を並べて立ち上がることを拒む。
こちらは何と言われようと延々と「おふろはいれー」
「やっぱりおふろ入った方がよいかな?」
お、少し歩み寄って来たな。
「うんうん、入った方が良いね」
「うーむ……」
「早く入った方がその後ゆっくり出来るよ」
「んー……分かりました!」
ここでやっと決心がついたかと胸を撫で下ろす。
「じゃあブレーキランプ5回点滅させて、『フ・ロ・ハ・イ・レ』
この女は時々理解し難い提案をしてくる……
しかし、それで事が済むなら安いものだ。
私は、パントマイムで車に乗り込み、
『フ・ロ・ハ・イ・レ』
それに応える様に、
『フ・ロ・ハ・イ・リ・タ・ク・ナ・イ』
いいから早く入れよ!www
そんなこんなで大体30分くらいが過ぎ去る。
私にしてみれば、
そしてしばらくした頃、ようやく嫁は重い腰を上げる。
「仕方ねー、ふろ入るかー」
「お、いいぞ、入っちゃえー」
「じゃあちょっとおふろ入る支度する、タオル取ってくる」
そう言い残して、寝室に向かう嫁。
15分後。
私が寝室のドアを開けたところで嫁と目が合う。
「HEY!」
「えっ!?」
「『えっ!?』じゃねーよww」
ここまでやってようやく嫁は浴室に向かう。
時既に22時である。
そして、誰しもが毎日苦も無く行う行為を自慢げに語ってくる。
「おふろ入った!」
「そうだね」
「これで文句ねーべ!」
「髪乾かせー」
「なんでー!?」
今日も平和です。